でっきぶらし(News Paper)

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111号(1996年05月)11ページ

動物病院だより ◎ブヒッ、ブヒー!

 それは5月のある日のことでした。なんとも騒々しいけれども憎めないお客さんが動物病院にやって来ました。どんなお客さんかというと、それは瓜坊ことイノシシの赤ん坊で、親からはぐれてしまったところ保護されてきました。赤ん坊とはいっても、すでに生まれてから日にちがかなり経過しているようで、警戒心が出てきていて抱かれるのを嫌がり、ブヒッ、ブヒーと鳴いておとなしくしてくれませんでした。しかしまだ離乳には程遠くミルクを与えなければなりません。それには哺乳びんで与えるのが一番簡単なのですが、全く興味を示さないので平皿にミルクを入れて鼻先に持っていくとピチャピチャと舐めるようにして飲んだのです。ただ、もう結構力がありますので床に置くとひっくり返してしまいます。それで鼻先で皿を持っていてやるのですが、それには非常に時間がかかりました。そこで一度哺乳びんから飲むことを覚えてしまえばと考え、無理矢理押さえつけ飲ませてみることにしました。これはなかなかの戦いで、端からみるといじめているように見えたかもしれません。もう瓜坊の方は死に物狂いで「ブヒッー、ブヒー!」と逃げようとします。それを押さえつけて飲ませるのです。すると、この瓶からミルクが出て、それを飲めばお腹がいっぱいになるということを覚えたのか、2回目からは哺乳びんを鼻先に持っていくとそこからスムースに飲むようになりました。しかし、それも束の間でした。哺乳びんから飲んでくれるのはいいのですが、もう歯が結構鋭くなっていましたので、くちゃくちゃと飲んでいるうちに、あっという間に哺乳びんの乳首が裂けてしまうのです。これでは乳首がいくらあっても足りませんので、今度はとてもひっくり返せないような陶製の大きな器にミルクを入れてみました。すると、上半身を器に突っ込んで飲むではありませんか!ちょっと見たところ風呂にでも入っているようですが、これで随分と楽になり、ミルクを持って行くのを待つようにもなりましたが、相変わらず抱こうとすると「ブヒッー、ブヒー!」と威張っていました。
 結局、しばらくしてイノシシ村にもらわれて行きました。短い間でしたけれども印象の強い、憎めないお客さんでした。

 

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