でっきぶらし(News Paper)

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111号(1996年05月)10ページ

飼育係を体験して

 日本平動物園友の会に入会してから、かれこれ10年になろうとしていますが、ひょんな事で1ヶ月ほど、飼育を体験できました。最初はペンギン、フラミンゴ、クモザルの飼育を手伝うことになりました。まず動物園に出勤するとサツマイモ、人参の入った鍋を火にかけ、煮えるまでの間にペンギンとフラミンゴの給餌、掃除をします。この時異常な動物がいないことを確認し、次にその日に食べるパンや青菜、煮終えたサツマイモ、人参などをサルや病院など各動物に分配します。次にクモザルの餌であるオレンジ、バナナ、パン、煮人参、ブドウ、ゆで卵の黄身などを切る訳ですが、クモザルには子供がいますので、子供でも掴みやすいように小さめに切ります。その後餌を持って池に行き、ボートを漕いでクモザルの島に行き、給餌、掃除をします。クモザルが終るとペンギンの夕食と次の日の朝食のアジを解凍し、フラミンゴの次の日の朝食のフラミンゴフードとオキアミを混ぜ、冷蔵庫にしまいます。次に調理場で各動物の翌日の餌を用意し、掃除をします。そうしているうちに夕方になり、ペンギンの夕食を持ってペンギンとフラミンゴのところに行き、動物の確認と掃除をして、一日の仕事が終ります。
 これらの事を6日ほどやったのですが、各動物ごとに餌の種類、量が違うため、覚えきれなくていつも一覧表とにらめっこしていました。その当時、病院に生後1週間ぐらいの雛1羽と生後2ヶ月ぐらいの雛2羽のペンギンがいました。これらは人工育雛のため、病院にいて飼育係の人が餌を与えていました。生後2ヶ月の雛たちは全身茶色の毛で覆われていますが、体の大きさは大人と変わらない位です。餌はアジを丸ごと食べますが、それぞれ食べた量を知るために1匹1匹手で与えます。普段は知らない人がくると巣の中に我先に隠れますが、おなかがすいている時はピーピーと騒ぎ、餌を催促します。それぞれ孵化した日が違うので最初は先に孵化した雛の方が体重があったのに、もう一羽に比べて餌を食べないので後に孵化した雛に追いつかれてしまい、羽毛の抜け具合などで個体を判別してしまいました。 飼育係の人の話だと2羽で人工育雛している時は、互いの姿を見ているため自分をペンギンだと認めますが、一羽だと自分をペンギンだと認めにくいそうです。現に今、ペンギンの池にいるトミーは、一羽で人に育てられたため人を恐がりません。掃除をしに行くと他のペンギンはプールの中に入るのに、トミーは気にした様子もなく、時には突っついてくることがあるくらいです。孵化後1週間の雛は体を白い羽毛に覆われていて目もまだ開いておらず、立つこともできない程弱々しいもので、この雛があの二羽のようになるとは信じられません。餌もアジを丸ごと一匹とはいかず、ミンチにしてから揩闥ラし注射器で少しずつ与えます。その後この雛は生後2週間くらいで残念ながら死亡してしまいました。2羽の雛は今では生後3ヶ月ほどになっているので、茶色の羽毛も頭の一部を除いて抜け、立派な子供の姿になっており、泳ぐ練習をさせるために水を溜め、餌も水の中に沈ませています。
 その次にゾウ班の手伝いをするようになりました。ゾウ班には四人の飼育係の人がいますが、それぞれゾウ以外にも担当している動物があります。本来なら出勤時間は8時30分ということになっていますが、ゾウは9時に調教を始めるということになっているため、8時30分ぎりぎりに来ていたのでは他の動物を出したり、掃除をすることができません。そのため、ペンギンの時もそうでしたが、8時前には出勤していました。もっと早く来ている人もいます。ゾウの担当者はゾウ以外にキリン、バイソン、猛獣舎、中型サル(今では担当動物が変わりました)をそれぞれ持っていて、僕も場合によってゾウ以外の動物の掃除等をしていました。中型サルでは朝、サルを出す前に朝食としてオレンジ、バナナ、リンゴ等を与えます。それから動物を出し、全部出たことを確認した後、寝室の掃除を始めます。サルは床だけでなく壁にも糞がついており、壁もデッキブラシで擦る必要があり、手を抜くと壁が汚れてしまうので大変です。餌もサルごとに若干違い、例えばアビシニアコロブスは他のサルとは違い草食性が強いので、あまり果物を食べないのでかわりに青菜を入れます。それらの事を覚えていて手早く餌を切り分けている飼育係の人はすごいなと感心させられました。また、普通の餌以外に園内の樹木の枝を切って与えることもあります。それらを与えるとアビシニアコロブスは勢いよく枝に貪りつきました。それ以外にニホンザルの中に野生より捕獲した個体が1頭いますが、他のニホンザルと違ってアビシニアコロブス以上に貪りついています。また、ニホンザルは飼育係の人の顔を覚えていて、遥か遠くにいるのに顔を見分けます。すごいのは遥か遠くでトラックに乗っていても見分け、檻にへばりついて騒ぎます。顔を覚えているということではシシオザルもそうです。赤ん坊のらんらんの兄は、ある飼育係の人が前を通ると逃げてしまいます。その人に話を聞くと以前、担当した時に怒ったら、それ以来そうなったそうです。また、病院に入院していたマンドリルのメスが退院してきました。オスとの同居がうまくいくかと、獣医さんと担当の飼育係の人が見守る中で獣舎へ戻りましたが、何事もなくすんだので獣医さんと担当の飼育係の人はホッと胸を撫で下ろす場面もありました。
 猛獣舎にはブチハイエナ、シンリンオオカミ、ライオン、ユキヒョウ、トラ、ヒョウがいます。ブチハイエナはメスでも性器がオスのようになっているため、外見では判別しにくいそうです。放飼場にいるブチハイエナを見ると気付くことですが、額に傷があります。これは自分で頭をぶつけるそうで、いつ見ても生傷が絶えません。今でも時々精神安定剤を投与しているそうです。また、このブチハイエナは病院に入院している時にブチと呼ばれていたらしく、今でも名前を呼ぶとしっぽを振ります。オオカミより犬っぽくなったと獣医さんは言っていました。ユキヒョウはある意味では猛獣舎の中で一番やっかいな動物です。なぜかと言うと、他の動物は夕方になると「お腹がすいた、早く入れろ」と寝室へのドアの前で待っていたり、ドアを引っかいたり、吠えたりして、ドアを開けるとさっさと中へ入ってきますが、ユキヒョウはなかなか寝室の方に入ろうとしません。担当者が休みで他の人が入れようとすると特に中に入ろうとせず、いつもユキヒョウは早く入れと怒鳴られています。よく、お客さんがライオンとトラの前に来て、また寝てると言っています。猛獣舎の動物は基本的に夜行性です。野生のライオンなども狩りをするとき以外はよく寝ています。オスなどは狩りに参加しないので余計に寝ています。少しうらやましいですね。動物園では狩りをする必要もないので、それもしかたないと思います。家で飼っている猫が寝てばかりいるのと同じです。ライオンもトラも結局、猫の親分みたいなものですから。さて、ライオンはまだ見える所で寝ているのでいいのですが、トラは奥の所で寝ているので、よくトラがいないと言われていました。そこで最近、よく寝る所に竹を敷き、その場所で寝られないようにしました。これでようやく、お客さんから見える位置で寝るようになりました。ただ、トラにしてみればせっかくの寝場所をダメにされて怒っているかもしれません。
 ヒョウのオスはヒョウ太といいますが、人工哺育で育てられたため、割と人間に馴れていて、檻の前に行くと寄ってきたりします。ただ、後述のキリンのシロウもそうですが、メスとの交尾行動があまりうまくいっていないという問題点もあります。しかし危険な動物であるということは変わりありません。 
 餌は馬肉と鶏肉を与えますが、動物によって好みがあります。また寝室に入る順番も決まっています。それら動物の癖を担当の飼育係の人は理解して飼育しているのです。
 次にバイソンですが、お客さんの反応を見ると、臭い、汚いなど評判は良くありません。確かに見た目は可愛いとは見えませんが、寝室に入れようと名前を呼ぶと、そばに来るなど愛嬌もあります。ただ、寝室を出入りする時の勢いは恐いものを感じました。ただ飼育を体験してみて臭いとは思いませんでした。臭いについていえば、ライオンなど猫科の方が遥かにきつく、二日酔いの時などは猛獣舎に入らない方がいいとさえ思えたほどでした。という訳で、もう少しバイソンを温かい目で見てください。 
 バイソンと違って大人から子供まで人気のあるキリンですけど、意外と神経質な動物です。人工哺育によって育てられたオスのシロウは人間馴れしていますが、メスのキッコはそうではありません。担当の飼育係が変わると餌の食べる量が減ることもあるそうです。何かに驚いて走り出し、転んで骨折してしまうのではないかと飼育係の人は心配していました。普通、キリンの糞はヤギのように小さい塊が数多く出るのですが、濃厚飼料を食べ過ぎると大きく、軟らかくなったりするそうです。
 最後にゾウですけど、はっきり言って重労働です。食べ残しの乾草なども入っていますが、二頭で一日に大きなポリバケツ4杯から5杯の糞をします。睡眠時間のデータをとるために、夜のうちの行動をビデオに撮っていますが、ここのゾウは2頭とも横になって寝ます。ダンボは右向きでも左向きでも寝ますが、シャンティは左向きでしか寝ません。人間のようにずっと寝ている訳ではなく、短い睡眠を何回かすることが多いようです。 
 1ヶ月間でしたが、動物園友の会ででも知らなかった事を数多く知ることができました。作業手順やコツをつかめずに飼育係の方々にいろいろと迷惑をおかけしてしまったと反省しています。今回得た経験を動物園友の会ボランティアの方に活かしていきたいと思います。
(土屋博之)

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