285号(2026年04月)6ページ
チンパンジーのヨシミについて
表紙にもあるとおり、12月22日にチンパンジーのヨシミが平川動物公園へ出園しました。ここでは担当の私からヨシミについて書いていこうと思います。
ヨシミはコニーと一緒に1996年3月9日に来園しました。昔の日本では肝炎の薬の研究としてチンパンジーたちを肝炎に感染させて、ヒト用の薬を作るという実験をしていました。このように書くとひどいことのように思いますが、そのおかげで肝炎の患者さん達は病気を治すことができています。実はヨシミのお母さんもその実験に参加していて、現在は非公開の施設で慢性肝炎の治療をしてもらっています。来園時ヨシミは9歳(げんきと同じような年齢)でまだ大人よりも一回り小さいくらいですが、コニーよりも歳上だったのでお姉ちゃんのような感じでコニーを守っていたそうです。
ヨシミは慎重な性格で飼育員のいうことをよく聞いてくれ、当園のメスの中でも順位が高く面倒見の良い姉御肌でした。母性本能が強く群れの子どもを大切にしたり、ピーチというメスと姉妹のように仲良くしていました。でも実は腹黒いところがあって、ピーチの餌を奪い取ったり(通常チンパンジーは他個体が手に持った餌はとらないそうです。とるのはピーチのものだけでした。)、他の個体に命令して悪さをしていた印象があります。直接悪さをするのは他の個体なので、飼育員も昔からヨシミを怒ることはほとんどなかったと思います。このようにとても頭が良いので教えたこともすぐに覚えてくれました。例えば歯磨きや注射の練習、体温測定(おでこで検温します)も一週間程度ですぐにできるようになるので教えがいがありました。でも好き嫌いがはっきりしていて、注射の針が大きくなっただけですぐに気づいて不機嫌になったりもしました。
今回、チンパンジーを当園から搬出するのは2007年以来約20年ぶりだったので、担当としてはプレッシャーを感じていました。他の動物園にも相談し、どのようにしたらヨシミになるべく負担をかけずに麻酔をかけられるだろうかと考えました。最終的に私がヨシミにお尻を出すように指示して、獣医師に吹き矢で麻酔を打ってもらうことになりました。手で直接注射することも考えましたが、どうやら麻酔薬は打つときにとても滲みる(痛くなる)らしく、練習の時間も足りなかったのでこの方法を採用しました。麻酔を打つ予定の獣医師に3週間前から何度も来てもらって、実際に吹き矢を吹く体制をしてもヨシミが逃げないようにするための馴致(慣らすこと)をしました。これも頭が良いヨシミはすぐにできるようになり、その状態のままシャーペンでお尻を突いて痛みがあることも覚えてくれました。そのため当日の麻酔はかなりスムーズで、打ってもほとんど怒ったりせずにすぐ落ち着いてくれました。あまりの落ち着きにこちらがびっくりしたくらいです。
麻酔が効いてからは、いつもはできない採血、レントゲン、エコーなどで健康チェックをして、練習しても簡単にはできなかった爪切りをしてから輸送箱に入れました。出発するのは目を覚ましてからの方が安全なので、体調を見ながら覚醒を待ちました。目を覚ましたら痛いことをした私を嫌いになっているだろうと思っていましたが、そんなことはまったくなく、ごはんも受け取って食べてくれました。移動は休憩などもいれて20時間ほどかかる予定だったので、ジュースといつも食べている餌をお弁当として輸送してくれる方に渡して出発していきました。
移動中の休憩時にはほとんどのお弁当を食べてくれていたようで、平川動物公園でも部屋に入って落ち着いた様子を動画で送っていただいてとても安心しました。これから初対面のチンパンジーたちと同居が始まり大変なこともあると思いますが、平川動物公園にはチンパンジーの子どもが3頭もいて、子ども好きなヨシミにとっては楽しいことも多いのではないかと思います。自分が担当になるずっと前から日本平動物園にいたヨシミがいなくなるのはさみしいことですが、繁殖目的の移動なので子ども好きなヨシミに赤ちゃんが生まれたら嬉しいです。平川動物公園は鹿児島県にあるのでちょっと遠いですが、皆さんにもヨシミや日本平動物園のチンパンジーたちの今後をあたたかく見守ってもらえればうれしいです。
(井上)



