284号(2025年12月)4ページ
重さを知りたいだけなのに
「体重」というのは多くのことを教えてくれます。人間もやせているか太っているか、ごはんをどれくらい食べるべきか、薬をどれくらい投与すべきか―体重が分かるだけで、より健康的に生きることができます。もちろん動物園の動物だって体重が分かるに越したことはありません。実際、以前当園にいた獣医も「まず体重!体重が分からないと困るのよぉ!」と言っていたことがありまして、薬の処方や麻酔下での処置をする獣医にとって体重は欠かせない情報となります。一方で、多くの動物にとって体重計は怪しい物体であり、体重測定は謎の行為でしかありません。見慣れない体重計に乗せようとすれば、全力で拒否することも珍しくなく、体重を測るだけでも一苦労です。
新人の頃、私が担当していたポニーのつくし(メス)は、体重測定練習用のベニヤ板にすら乗ろうとしませんでした。おそらく足の下の感触がいつもと違うのがどうしても嫌だったのでしょう。それもそのはず、蹄を持つ彼らは“ぱかぱか歩く”と表現されるほど足音が響く動物です。コンクリートの地面から木の板にのれば足音も歩く感触も当然違います。とはいえ家畜のポニーですから、嫌がるつくしを少しずつ手綱で誘導し、なんとか板に乗せていました。最終的にはベニヤ板の下に「スケールバー」と呼ばれる大きなカステラのような体重計を2本入れて測定していました。今思えば、つくしは渋々ながら協力してくれていたのでしょう。あの時はゴメンね、つくし…。
しかし次に担当したブチハイエナではそう簡単にはいきませんでした。ハイエナは家畜のポニーと違い、同じ空間に入ることも手綱を引くこともできません。さらに鋭い歯と強力な顎を持つ彼らに壊されないよう、体重計を工夫して設置する必要がありました。悩んだ挙句体重計が隠れつつもハイエナが通路から入ればそのまま測定できるような箱を作ることにしました。もちろん体重計に乗っている間はご褒美のお肉がもらえる構造です。結果的にこの方法で測定はできましたが問題がひとつ。セッティングがまぁ大変なのです。ポニーの時と同じスケールバーを使ったのですが、これがそこそこ重く、ハイエナ舎の階段を上り下りして運ぶのは一苦労。さらに箱の構造上、設置に10分近くかかります。そこで次は大型犬用の体重計を導入しました。これは置くだけで測定でき、準備も30秒ほどで完了します。とても楽なのですが、ハイエナから丸見えなのでオモチャと認識されたら一巻の終わりです。そのためダミーの体重計でトレーニングを重ねたり、周囲を木枠で囲って噛みにくくしたりと工夫を重ねました。その甲斐あって、私が担当を離れる頃には安定して測定できるようになっていました。めでたしめでたし、です。
現在はアジアゾウの体重測定に頭を悩ませています。どうすれば測れるのか、まったくイメージが湧かずお手上げ状態です。いつか「でっきぶらし」でゾウの体重測定について書ける日が来るといいのですが、それはまだまだ先のことになりそうです…。
(藤森)

