283号(2025年09月)7ページ
「投薬奮闘記 ~病院飼育と入院動物(サル)編~」

みなさま、こんにちは。今回の病院だよりは入庁2年目の獣医が担当いたします。「おくすり」と聞くとどのようなイメージが湧きますか?甘い、苦い、えぐいなどなど…。動物たちの体調が悪そうにみえるときにはおくすりを処方したりします。同じ種類の動物で、あの子は錠剤飲めるけど、この子は粉じゃないと飲めない…なんてことはしばしばあり、その個体に合わせた処方をします。中でもサルの投薬は難しいと感じます。飼育員もあの手この手でたくさん試してくれますが、知恵比べすることが多いなと日々感じています。今回は入院動物のサルたちに注目して、私の印象に残っている投薬の思い出をご紹介いたします。
まずはマンドリルのマロンです(御年32歳。筆者より年上の先輩です)。彼女は今年の冬(1月ごろ)、寒さ対策をしていましたが体調を崩してしまいました。いつもはおやつ欲しさに駆け寄ってくるのに、出勤時に声をかけると伏せてしまって反応があまりない…鼻水がでており、風邪のような症状がみられました。まだ食欲はありそうであったため、飼育員と相談して飲み薬を始めることにしました。飼育員が錠剤をバナナに仕込んで渡してみると、バナナだけ食べて「ンナっ」と錠剤だけ器用にだしました。つづいて煮ニンジンに仕込んでみてはどうか?こちらは食べましたが、次の日同じように渡すと出してしまいました。煮イモやオレンジに詰めなおしても、またまた出しやがりました。ここで、飼育員が長ネギに錠剤を詰め込んであげるという妙案を思いつき、やっと無事に投薬することができました。歯ごたえがあったからバレなかったんですかね…?と飼育員が嬉しそうに話をしていました。体調も徐々に回復し、投薬できた次の日は長ネギを嫌がりましたが、今はもうすっかり元気になっています。これからも採食よく、末永くのんびり暮らしてほしいです。
続いては5年ほど前から入院しているシシオザルのルキです。てんかん発作をおこしてしまうため展示から病院にきた子で、病院にいる期間は私より長く、こちらも先輩です。そんなルキに抗てんかん薬を処方しています。やり方はパンにオリゴ糖を塗り、粉薬をオリゴ糖にふりかけ、さらにパンでサンドしたお手製ルキサンドを作ってルキに渡します。今日は受け取ってくれるのでしょうか…。なんと、振りかぶって思いっきり捨てたではありませんか!いつも受け取ってくれるのにどうして?よくみると手にはうんちがついているではありませんか。自分でうんち触ったやんけ!たしかにうんちがついたものは食べられませんね。その後はもう一度ルキサンドを受け取って食べました。そういえば以前、秋の季節に渋皮を剥いた栗を渡そうとすると、途中まで食べていた白菜をその場で振りかぶって捨てて、栗をくださいと私に手を差し伸べたことがございました。さっきまでの白菜、もったいないから食べなさいよ…。いつも捨てるときは思い切りの良い、欲張りさんなルキでした。
動物だけでなく人間も同じように体調に気をつけて生活していても、気温の変化や些細な事で体調を崩してしまうことはあるかと思います。園内にはさまざまな動物がおり、治療がうまくいかないことも多いですが、体調が回復していく様子をみられると安心し、やりがいを感じます。これからも飼育員と相談しながら園内動物に気を配り、健康管理の支えになれるよう邁進してまいります。あたたかく見守っていただけますと幸いです。
(松永)