でっきぶらし(News Paper)

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283号(2025年09月)4ページ

「命について」

飼育員になって3年目の私は、ヤギの出産を2度経験しています。1日中雨が降っていた5月2日、「颯和(さわ)」というヤギが1頭の仔ヤギを出産しました。昨年の3月20日、颯和の母ヤギの「令美(はるみ)」が双子を出産しましたが、出産後、令美が乳房炎になり、双子の仔ヤギは人工哺育で育ちました。今では、令美の乳房炎も回復し母子共に元気に生活しています。令美の命がけの出産を経験し、颯和の出産は安産であってほしいと強く祈り、出産前からちょっとした体調の違和感はないか、いつも以上に観察や飼育管理を徹底して行いました。そして出産当日、私は早朝出勤でもあり、いつもより早く出勤していました。出勤した時には既に颯和の陣痛が始まっており、落ち着きがなく、お腹が痛いようで鳴いていました。しばらく見守り、午前8時30分、無事にオスヤギを一頭出産しました。初乳もちゃんと飲めていたので安心していましたが、その日の夕方、仔ヤギはあまり動かず鳴かずぐったりとしていました。産まれてからを振り返ると、初乳は飲めていたがその後の母乳を飲んでいる時間が短かったように感じ、獣医や同僚の飼育員たちと協力して、母乳を飲ませようとしました。しかし強制的に飲ませようとすると、仔ヤギは大きな声で鳴き嫌がりました。仔ヤギが自分で母乳を飲むこともありますが、飲んでいる時間が短く、すぐに座ってぐったりしている状態でした。ひとまず母乳は飲めているため、次の日にまた様子をみることにしました。帰宅しようとして駐車場へ向かっている時、雨も止み、空には大きな虹がかかっていました。私は、今までで一度も大きくはっきりとした虹を見たことがなかったので、とても感動し、忘れられない一日になりました。帰宅しても私は、「仔ヤギは母乳を飲めているのだろうか」、「母ヤギに何かあったらどうしよう」などと、不安でいっぱいでした。次の日も少し早く出勤し朝一で様子を見にいくと、呼吸はしているが、自力では立てない状態になっていました。すぐに獣医に相談し、母乳を飲めていないことによる低血糖になってしまっていたため、処置を行いました。しばらくすると自力で立ち上がり、母乳を飲む姿を確認することができました。その後は大きな声で鳴いたり、ぴょんぴょん跳ねたりしていてすっかり元気になりました。

人間も動物も、命を授かることは奇跡です。出産も命がけです。ヤギの出産を2度経験し、私は改めて命の尊さを実感しました。仔ヤギの名前は「虹」と書いて「こう」と命名しました。虹は、昨年令美から生まれた「杏」と特に仲が良く、いつも追いかけっこをしたり、擬岩の上でじゃれあったりして遊んでいます。

私はヤギ・ヒツジ担当が2年目になります。ヤギの人工哺育と自然哺育を比べると、自然哺育の成長の方が早いと感じました。命に関わる仕事のため勉強の毎日ですが、私は飼育員という仕事が大好きです。これからも自分の健康と共に、動物たちの健康を第一に考え一生懸命頑張ります。ぜひ、日本平動物園のヤギ・ヒツジたちに会いに来てください。

(三浦)     

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