110号(1996年03月)3ページ
動物病院だより
日増しに暖かくなり、ここ日本平動物園も緑がまぶしい季節となりましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
春と言えば人間の世界では進学、卒業、就職など出会いと別れの季節でもありますが、我が動物病院でもいくつかのお別れがありました。
動物病院では傷ついたり、病気になってしまった野生動物を治療して野生に返すということも行っています。そんな中に様々な理由(ちょっと親が離れたときにまちがって保護されることも多いようですが)で親からはぐれてしまった動物達もいます。本当は親が育てるのが理想であり、自然なのですが親とはぐれてしまった赤ちゃん達は自分で生きて行く術を持っていません。そこでその様な赤ちゃん達がやってきた場合には、動物病院のスタッフ達が親代わりとなり人工哺育というかたちで育てることになります。ここに昨年の繁殖期に運ばれてきた哺乳類の赤ちゃんはタヌキが一番多く、次いでハクビシン、ムササビ、ノウサギなどでした。どのように育てるかというと、みなさんのなかでもペットを飼っている人も多いかと思いますが犬や猫などの赤ちゃんを育てたことがありますか?その場合とほとんど変わりありません。ミルクの濃度が動物によって違うこともありますが、暖かく保温してあげて、ミルクをほ乳びんや注射器などで飲ませてあげます。また、最初赤ちゃんは自分でおしっこやうんちをすることができません。親がいる場合は、なめてあげることによってそれができますが、人工哺育の場合は人間が手でマッサージすることによってできるようになります。もちろん赤ちゃんですから初めの内はいっぺんにたくさんのミルクを飲むことができませんから、早朝から夜中まで何回かにわけて飲ませて上げます。しばらくして歯が生えそろった頃から軟らかくて、消化の良いものを離乳食としてあげて、徐々に成獣が食べるものにしてあげます。そうやって人工哺育で立派(?)に成長した動物達がこの春、野山へと帰っていました。
ただこんな風に人間の手を借りて育った動物が本当に自然の中で生きていけるかというとなかなか難しいようです。私たちは、暖かくして、ミルクを飲ませることによって体自体を育てることはできますが、自分で餌を探したり、敵から自分の身を守るというような自然の中で生きていく術を教えてあげることはできません。人慣れしてしまっているからなのか、元からいる個体との縄張りの関係なのか、それとも放した環境の収容能力が限界に来ているためなのかわかりませんが再び人の住む近くに出てきてしまったり、交通事故などに遭う確率も高いようです。
小さな頃から育てると情が移ってしまい、別れは寂しくもあります。それでも出来ることならば自然の中で生かしてやりたいものです。無事でやっているか心配ですが、彼ら、彼女らがどこかの野山で元気でやっていってくれるよう願わずにはいられません。
(金澤祐司)