250号(2019年10月)2ページ
がんばれ!エコちゃん
去年の4月、ワラビーのメス「エール」のお腹から可愛い赤ちゃんが顔を出しました。ワラビーはカンガルーの仲間で、カンガルーと同じくお母さんのお腹の袋の中で赤ちゃんが育ちます。生まれたての赤ちゃんはとても小さく、生まれてすぐに自力でお母さんの袋に入ってそのまま数か月は出てこないので、飼育員も生まれたことに気づかず、正確な誕生日はわかりません。そこで、袋から初めて顔を出した日を誕生日の代わりに記録します。エールの赤ちゃんは順調に大きくなり、初めて顔を出した日から2か月ほど経つと、袋から全身を出すようになりました。はじめのうちは外に出るのは短い時間で、何かに驚いたりするとすぐにお母さんの袋に入ってしまいます。それでもだんだんと外の世界に慣れていき、自分で葉っぱを食べてみたり、お母さんから少し離れてみたりと順調に成長しているようでした。体も大きくなり、夏ごろになるとお母さんの袋にはあまり入らず、外から袋の中に顔をつっこんでお乳を吸っていました。性別はオスと分かり、お母さんの「エール」とお父さんの「ドコ」から一文字ずつとって、「エコ」と名付けました。
秋になり、離乳もそろそろかと思っていた矢先に、お母さんのエールが亡くなってしまいました。ワラビーのお父さんは子育てをしないので、残されたエコのことを飼育員がケアしていかなければなりません。餌に粉ミルクを振りかけて栄養を補ったり、保温灯の位置を調整して寒くないようにしたり・・・お父さんのドコとの関係も心配でしたが、お互いに微妙な距離を取りながらも、大きなトラブルは起きず安心しました。
そんな父子生活が半年ほど続きましたが、エコが初めて顔を出した日から1年が経った今年の4月、甲府市からお嫁さんとしてメス2頭がやってきました。お嫁入した「スズシロ」と「ハコベ」はエコより少しだけ年上の若い女子たち。生まれて初めて母親以外の女性に出会ったエコは、大興奮で2頭をしつこく追いかけては匂いをくんくん嗅ぎまくり、女子たちをドン引きさせてしまいました・・・。一方お父さんのドコはオトナの振る舞い。まだ環境に慣れず不安そうな女子たちを優しくエスコートし、嫌がるときは深追いしない。加減がわからずしつこくメスを追うエコを止めに入ることも。あまりの紳士ぶりに思わず「惚れてまうやろー!」と言ってしまいそう・・・。メスたちもドコにはすぐに慣れたようで、1週間ほどで交尾も見られるようになりました。
最近ではドコの背中を見て学習したのか、エコも少しずつ落ち着いてきたように思います。最初はエコに追いかけられると逃げ惑っていたメスたちは、だんだんたくましくなり、跳び蹴りで応戦することもあります。そんな平和(?)なワラビー舎で、また赤ちゃんが見られる日が来るのも、そんなに遠くはないかもしれません。
(川合 真梨子)