159号(2004年05月)5ページ
病院だより おかあさんは心配性
5月20日に、ブチハイエナのホシ(オス)とキラ(メス)との間に待望の赤ちゃん「ツキ」が誕生しました。当園では一度死産の例がありますが、出産育児は初めてのことなので、わからないことも多く、担当者一同試行錯誤しながらキラの子育てを見守っています。
キラは昨年6月に来園しました。ホシとの相性も良く、12月に交尾を確認し、その後おなかのふくらみがだんだん目立ってきて、そろそろかなと一同期待を持って観察していました。ブチハイエナのメスの生殖器は筒状の形をしており、見た目にも子供が
出てきにくそうで生まれるまでに時間がかかりました。キラは性格の良い個体で人にも慣れており、飼育係との日ごろのスキンシップのたまものか、陣痛から出産までを日中に私たちの目の前で行いました。朝から陣痛がきている様子で観察をしていましたがなかなか生まれず、夕方までかかってやっと出産。しかし、キラは子供の体はなめたものの頭をなめなかったため、子供を包んでいる羊膜が顔のまわりについたままで、子供は一時呼吸ができない状態でした。そのため、キラを隣の部屋に移して、子供の体をワラやタオルでこすりながら呼吸を促したところ、小さな声でしたが第一声をあげて子供は呼吸をし始めました。その後キラを元の部屋に戻すと、すぐに子供のそばに駆け寄り面倒を見てくれました。
お母さんはキラキラボシの「キラ」、お父さんは「ホシ」という名前なので、子供の名前は「ツキ(月)」になりました。ツキの体は真っ黒。両親はクリーム色の体に黒いブチ模様があるので、随分違うんですね。いつごろブチ模様が出てくるか楽しみです。キラは面倒見が良い反面、心配性。夕方、展示場からホシが隣の部屋に入ってくると、ツキがオリ越しにホシの方にちょろちょろと寄っていくので、キラがそんなツキをくわえてウロウロしている様子が何度も見られました。そんなキラの子育てストレスも緩和しようと、日中ホシと共にキラを展示場に出すことにしました。
しかし、あるときツキの右肩に皮膚がパックリ開いた5円玉大の傷ができていました。キラがくわえる頻度が多かったためでしょうか。このため、キラを外に出してから部屋の中に入り、毎日ツキの傷の治療をしました。ツキは治療のために捕まえられるときに大きな鳴き声をあげるため、外のキラはまるで「うちの子に何やってるのよ」と言っているかのように、ドア越しに(キラから部屋の中は見れませんが)鳴きながら行ったり来たりしていました。キラが部屋に戻ってくるとツキの傷口をまたくわえてしまうので、なかなか治りません。ブチハイエナは褥創ができると治りにくいそうなので心配でした。このため、ツキに軽く麻酔をかけて傷口を縫合することにしました。その後、その傷は治りましたが、他の部分に擦り傷や脱毛している部分が何箇所か見られるので、傷だらけのおてんばっ子のような姿です。
現在、展示場に少しずつ出して馴れさせている状態ですので、部屋の中だけでなく、外で元気に走り回るツキと優しいおかあさんのキラ親子を是非見に来てくださいね。
(野村 愛)