145号(2002年01月)2ページ
オランウータン・ジュリー・その後2
昨年の四月に来園したオランウータンのジュリーは、今までに何回か「デッキブラシ」に私の愚痴を載せる材料になっています。
以前に比べて環境(私達担当班の係も含む)にも徐々に慣れ始めました。自分の思い通りにならないと、床にうつ伏せて上目遣いに私達を見るいじけた仕草がなくなりました。
思うようにならないと、扉をゆすりガチャガチャと大きな音をさせたり、足で床をたたき音を出したりと、自分の気持ちを外に出すようになり分かり易くなってきた、と言えるでしょうか。
しかし、部屋の移動は扉を開けてもすぐとはいけません。人がいると移動しないのは、相変わらず以前のままです。
そこで二人が出勤している時は、一人が物陰に身をひそめ、もう一人は室内の明かりのみを残して後は全部消すようにしました。扉を閉めて、皆帰ったように見せかけたのです。そうすると扉を閉めて数分もしない内に餌のある部屋に移って行きました。
大成功です。以来、ずっとこの方法で移動させ、部屋中糞だらけの悩ましさはなくなりました。
それにしても、昼間に餌を入れて自由にいけるようにしていたのに、どうして移動しなかったのでしょう。私達が同じ建物の中にいると言うだけで、遠く離れて他の仕事をしていても移ろうとはしませんでした。
ましてやそばにいて移れば扉を閉めようと構えていれば、餌のところへ行きたくても行けずにいました。で、前述のような扉をガチャガチャさせたり足を唐ンならしたりの行動を示すのです。
当の本人にとって一番楽しいはずの食事、移ったその後に私達は彼女のいやがることなんてこれぽっちもしないのに、何故なんでしょう。不思議でなりません。
また、夕方の帰ったふりをしての部屋の移動でも頭の良いオランウータンであれば、何回か続けてやられれば同じ手が通じなくなるはずなのに、いまだに通じるのです。今までに十数分かかったのはたったの二〜三回です。この時は咳、クシャミを我慢、同じ姿勢で身動き一つできず足はしびれにしびれました。やっと移動した時は、扉を閉めに走るのに身体はさすがに想うように動きませんでした。
でも、ほとんどは一分もしない内に移動して行きます。これはこれで、いったいどういうことなのでしょう。
私達は、うまくだまして移動させているつもりでも、彼女は先刻お見通しでわざと一苦労させていたのかも知れません。本当に分かり合えるのは、まだ先、冬の時代はもうちょっと続きそうです。
(池ヶ谷 正志)