でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 54号の5ページへ54号の7ページへ »

54号(1986年11月)6ページ

レンズから見た動物達【アクシスジカの角の変化を追って見れば】

 シカの角は一年に一度落ち、再び新しい角が生えてくるのは御存知でしょう。
 アクシスジカを担当した時から、以前の記録の見直しを兼ねて、再度、角の生え替わる様子を撮ることはひとつの目的でした。それと亜成獣ともいうべき若雄の一本角が、成獣へと向かう時にどんな変化を示すのか、それもた大きな楽しみのひとつであり、当然記録することも考えていました。
 どちらかといえば、類人猿を初め、霊長類の飼育経験の長い私にとっては、表情の豊かさを見慣れていた為に、草食獣に対して表情の期待はありませんでした。だからこそ、アクシスジカに対しても“角”であって、決して“顔”ではなかったのです。
 もちろん、シャッターを切る時には、角の位置や形だけでなく、表情をも気にしなかった訳がありません。より豊かさを求めたのは当然です。ですが、ただそれだけのことで、気持ちは大きく、“角”に傾いていました。
 再び立派に生え変わる五ヶ月余りの過程を編集して、それは再発見したといってもよいでしょう。時や場所が変わっていたせいもあるでしょうが、一枚ゝの表情がずいぶんと違うのです。あくびをしていたり、おつにすましていたり、気持ちよさそうにまどろんでいたり、あまりにもの豊かな表情に改めて警嘆されられました。
 それは取りも直さず私の未熟さの表われであり、草食獣への無知であり、偏見もあったからでしょう。オールマイティという言葉を思わず思い出したぐらいです。
 でも、これからはシカは無表情だとは申しませんし、誰にもいわせません。そう、立派な証拠写真があるのですから、胸を張って表情豊かな動物だ、といい切れます。

« 54号の5ページへ54号の7ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ