でっきぶらし(News Paper)

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106号(1995年07月)14ページ

子育て・裏方事情【リハビリ】

 自覚を失ったサルを立ち直らせる方法、術はないものでしょうか。成獣になってしまえば絶望ですが、幼い内になら何らかの方法があってしかるべきです。
 これも少々古い話で恐縮ですが、他園の方とそんな悩みを語り合って、大変感服したことがあります。思い出せる限りを語ってみましょう。
 一般の家庭で飼われていたブタオザルの幼獣を保護したものの、サルとしての自覚はなく、とても仲間と一緒にできる状態ではなかったそうです。
 毛づくろい(グルーミングとも言い、サルのあいさつ行動のひとつで、互いの緊張をほぐすのに大事な意味を持つ)さえ知らず、まずそれをどう教えようかの思案から。ふと、自分の毛深い腕の毛を利用するのを思いついたそうです。
 それで毛づくろいの術を見い出させたとして、次は交尾です。教えるたって、どうやって教えていいのか、ちょっと思いつくものではありません。
 子猫を使ったそうです。子猫と接しさせていわゆるマウントするように仕向けたのです。その話を聞いた時、更に遠い昔の出来事を思い出しました。
 昔、当園にもサンペイと言うブタオザルがいたのですが、彼に何かの時にヒヨコを持たせると、暖かい柔らかい感覚に何かを思わさせたのでしょう。ヒヨコに対してマウント姿勢をとりました。
 その根気のいるリハビリを続けて、仲間との同居が可能になった、かつ交尾もしたと言うのですから立派な成功例です。これは私が見聞きした中で、最も感銘を受けた話です。

 動物の内面を語るのはむずかしいものです。食性や習性を語るのと違って資料も情報も乏しく、かつ自らの勝手な思い込みで語ってしまう恐れもあります。
それでも語ってみたくなったのは、かっての園長であり今の理事長でもある方に、何かの折りか人工哺育の後の大変さの話になって「お前達の力でなんとかならないのか」と問われてです。決して答えにはなっていないでしょうが、苦しい胸の内の一端は語れているでしょう。
(松下憲行)

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