でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 53号の9ページへ

53号(1986年09月)10ページ

動物病院だより

園内のあちらこちらで落葉が舞い、晩秋を思わせる装いとなってきましたが、皆さんの体調はいかがですか?
九月、十月の二ヶ月間の事をふりかえってみますと、まず九月二十一日の動物慰霊祭のことが頭に浮んできます。小雨の降る中、動物園職員、友の会の皆さん、そして一般の来園者の方々も参加して下さり、午後一時半より慰霊碑の前で行いました。飼育課長より「始めのあいさつ」があり、続いて片野次長、梅田動物園友の会々長様より「慰霊のことば」が述べられました。次に昨年九月から今年八月末までに死亡した動物の名前が読みあげられました。その中で主なものをあげてみましょう。まっ先にでてきたのはナマケグマのオスでした。彼は昨年九月下旬頃より食欲不振に陥り、各種の治療もむなしく、十一月十六日癌性腹膜炎で死亡しました。一昨年の暮れに初めて繁殖に成功し、そのコツがわかってきた時だけに残念でなりません。
次にマサイキリンの綾子が二月十三日に延髄内出血で死亡しています。なぜあの時座っていたんだろう?なぜふらついたんだろうか?最終的にはこのふらつきが元で、手前の堀に落ち、あがる時に石垣に頭をぶつけてしまい、この時の打撲が致命 となってしまいました。組織検査をしてもはっきりとした原因は不明で、綾子には申し訳ないと思っています。次のキリンの出産予定日は十月三十日で、その十日前の十月二十日より夜間観察に入っています。今度こそ綾子の分まで長生きしてくれるよう充分に注意して育てていかなければと思っています。
さてハ虫類館に目をやりますと、十一月十七日ヒイロニシキヘビが肝膿瘍で、今年二月九日にコロンビアツノガエルが肝臓癌で死亡しています。いずれもハ虫類館が開館して以来の動物で、特にコロンビアツノガエルは、十二年間さし餌をし続けてきたカエルだけに担当者はがっかりしています。このようにいろいろな思いが浮かんでくる中、献花が行われ、今年の慰霊祭も無事終了しました。
さて診療事項を見てみますと、九月一日ハ虫類館のカメ舎において、どうしたはずみかスッポンが隣のワニガメの水槽の中に入ってしまい、頬部、頚部、腹部をえぐられてしまいました。とりあえず化膿しないように抗生物質の焼く薬浴をし、様子をみることにしました。かなりの出血だったので半ばあきらめていたのですが、日増しに傷口は小さくなり、ほぼ三週間で回復しました。そこで担当者が一言!!「生血を飲んだのが良かったのかな!?」
九月十六日にはハイイロキツネザルのエルザが、とうとう息をひきとってしまいました。彼女は、昨年四月頃より糖尿病となり、治療を行っていたのです。日本で当園にしかいないハイイロキツネザルもとうとう吾作(メスですヨ)一頭になってしまいました。
類人猿舎では、九月にオランウータンのベリー、十月にローランドゴリラのトトの診療を行いました。ベリーの方は、鉛中毒の疑いがあった為、血液中の鉛をとり除く治療をしたのです。どういうことかと言うと、獣舎のオリにはさびないようにさびどめ塗料が塗ってあり、この中に鉛がはいっています。この塗料をかじり食べてしまうのです。他の動物園でこの鉛中毒でサルが倒れた話を聞いていましたので、ベリーもよくかじっているからと検査しました。その結果、やはり鉛の値がやや高かったので隔日四回鉛をとり除く薬を静脈注射しました。相手はまだ 才のオランウータンといってもすごい力があります。結局四人ががりでおさえこみ、注射となりました。彼女にとってみればかなりのショック!!でも回を重ねるごとに抵抗する時間が短くなり、四回目にはほとんど抵抗なくやらせてくれました。さすが類人猿と感心しました。ただ、これをやっていたいことをするのはこの人だと学習してくれないことを願いましたが・・・。投薬後の再検査で一応標準値の上限までに下がってきて、ほっとしています。
次にローランドゴリラのトトの方ですが、こちらは十月八日の昼頃からなんとなく元気がなく、夕方体温を測定してもらうと、四十度三分ありました。さっそく解熱剤を飲ませると夜九時には平熱にもどっていました。ところが翌日も朝から三十九度台。このくり返しが十日間続きました。担当の小野田飼育課員は、トトとのにらめっこの日々が続いたわけです。といいますのは、類人猿ともなると、ちょっとした違いがすぐにわかってしまい、ミルクに薬をまぜても出そうとします。そこで「のめ、だすな」とどなりながら根気くらべといった感じです。
こうやってどうにかメスの方はやれますが、オスのゴロンともなれば、発熱していたとしても体温測定はもうさせてくれないし、薬を飲ませたくてもミルクやジュースを飲もうとしなければそれまでです。ただひたすらうつらないことを祈りました。幸い、ゴロンは元気そのもの!!
今年は冬の訪れがはやそうです。皆さんも風邪をひかないよう気をつけて下さい。
(八木智子)

« 53号の9ページへ

一覧へ戻る

ページの先頭へ