でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 266号の1ページへ266号の3ページへ »

266号(2022年06月)2ページ

「ボク、がんばって 戻れたよ!」

チンパンジーの「げんき」を人工保育から仲間の元へ戻す練習を長らく続けていましたが、げんきの頑張りと仲間たちの協力で「コニー(お母さん)」と「れんげ(お姉ちゃん)」の所へ無事に戻れることが出来ました。良かったね。一時はどうなる事かと心配していましたが一安心です。

担当者は戻すための方法や時間など様々な試みをしました。段取りやタイミングを間違えてしまうと場合によっては取り返しのつかない事態になる事もあるので細心の注意を払って行ってきました。
 
お母さんとの寝室での同居は特に大きな問題なく進みましたが、放飼場となると広さもあり勝手が変わります。放飼場での同居時間は半日を目安と決め、げんきのいる所にまずはお母さんを連れて行きます。げんきの立場に立てば、今まで自分しかいなかった放飼場にいくら顔見知りとはいえ、「何で入ってくるんだ。」的な顔をしていたのが印象的でした。

げんきは手始めに一定の距離を取って相手の様子を伺い徐々に距離を縮めて行きます。何もしない事が確認されるといつも通り放飼場内を走り回ります。いつもいる場所なので勝手がわかっているため、何か不穏な動きを察知すると高い場所に素早く逃げていました。お母さんもげんきの気持ちを理解してくれているのか無理なことは一切しません。げんきはそれをいいことに態度が大きくなることが多々ありました。その時はさすがに叱られ追われることもありました。

毎日決まった時間に同居を行うためマンネリ化が見られるようになってきました。お母さん的には、「今日も。同居にはもう飽きた。」その気持ちが態度に出てきます。げんきの方に送り込みたいのですが通路内で立ち止まってしまったり、寝室へ引き返してしまうことが見られるようになります。そこを何とかなだめすかせてやっとのことで動いてくれることもありました。同居時間の終了が近いのがわかってくるとソワソワしてお互い関心が薄くもなってきました。

進むスピードは遅いかもしれないが、確実性を優先してきた結果かもしれない。同居に変化を加えるため次にお姉ちゃんも含めて3頭で行うことにしました。お姉ちゃんとは寝室越しのみでしか接したことがないので不安要素はたくさんあります。寝室越しでは何となく受け入れてくれていた感じはありましたが、実際同じ空間に入って時として力の加減で怪我を負わすこともあります。しかし担当者の心配をよそに最初から良い感じの雰囲気が出ていてほっとしました。お姉ちゃんはげんきを優しく迎え入れてくれて、その気持ちがわかってかげんきも甘える仕草をし、その後もいっしょにいるのが楽しいのか良く遊んでいました。その様子をお母さんは優しい眼差しで見てくれていました。3頭同居の安心が確認できたので同居時間を延ばしていくこととします。

夕方入舎させる際、げんきのポリシーなのか絶対に皆とは一緒に入舎をしないと決めている感じが見られました。入舎を促しますがなかなか入ってきません。扉を閉めようとすると出てしまう、通路途中まで来るが引き返してしまうなど複数人で入舎させることもありました。入舎する意味をなかなか理解してもらえず苦戦しました。全く入舎しそうもない時は外で夜を過ごしてもらうこともありました。

しかし、その瞬間は急に訪れます。何があったのかはわかりませんがその日に限ってお母さんにおんぶされて入舎してきました。このチャンスを逃してはいけないと思い、これを機に同居場所を広い放飼場に変えることとしました。最初は勝手が違い戸惑っていましたが徐々に環境にも慣れ色々なところに興味を示すようになります。毎日寝室から必ずおんぶされて出て行き、おんぶされて入舎してきます。もう担当者の世話にならず自分の居場所を明確にした瞬間です。体の成長が進み重くなった最近ではお母さん的にはおんぶするのが辛くなってきているようです。まだ自分の意思だけで入舎する気持ちの余裕は見られないため時間が必要です。ただ態度だけは…。今では元々から居たかの様なデカイ態度と生意気な行動で仲間を困らせることもあります。行き過ぎた行動で時々鳴かされいじける事もあります。そんな時だけ担当者に助けを求めてくることもありますが、もう手を差し伸べるつもりはありません。チンパンジーとして生きていくためにはそれしかありません。強い心を持って頑張りなさい。担当者としては嬉しさと寂しさが混ざり合った複雑な気持ちですが…。

(佐野 彰彦)

« 266号の1ページへ266号の3ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ