でっきぶらし(News Paper)

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238号(2017年10月)3ページ

行動観察のすゝめ

 6月23日の深夜、レッサーパンダの赤ちゃんが生まれました。母親は2016年にアメリカから来園したホーマーです。出産や子育ての様子は、展示物やHPのブログなどで少しずつ公開しているので、今回は私が行っている行動観察についてお話します。

 飼育棟の産室には、天井と巣箱の2か所にカメラが設置されており、24時間録画されています。通常は、母仔の様子に異常がないかを確認するために使われているのですが、せっかくデータが残っているので、この春からレッサーパンダ担当になった私にとっては勉強になるだろうと、ホーマーの夜間行動を細かく観察・記録することにしました。録画された映像を再生・早送りしながら、いつどこで、どのような行動をしていたかを記録シートにメモしていきます。これがなかなか大変な作業で、一晩(約14時間)の行動をメモするだけで40~60分かかります。そしてそのメモをパソコンに入力し、数値をグラフ化していきます。

 記録を始めて3か月、いろいろなことがわかってきました。おおよその行動パターンや出産前後でホーマーの休息時間が大きく変化したこと、赤ちゃんの成長に伴って休息する場所を変えているような傾向もわかってきています。ある程度データがまとまったら動物園関係者の集まる会議などで発表し、来園者の皆様にもお伝えできたらと思っています。

 そもそも、なぜ動物園でこのようなことをする必要があるのでしょうか。野生のレッサーパンダは人里離れた標高の高い山で暮らしており、一目会うだけでも膨大な時間や手間がかかります。ましてや、出産や子育ての様子を間近で24時間観察し続けることなど不可能に近いのです(実際、レッサーパンダについてわかっている交尾行動や妊娠、出産に関する情報の多くは、動物園での観察や調査から得られたものです)。動物園で様々なデータを蓄積していくことで、レッサーパンダという動物をより理解することができ、飼育環境の改善や、野生のレッサーパンダの保全にも役立つのです。

 この記事が発行される頃には赤ちゃんが一般公開され、そろそろ名前も決まる頃だと思います。どんな名前になり、どんな子に育つのか。これからも成長を見守りたいと思います。


(飼育係  横山 卓志)

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