でっきぶらし(News Paper)

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236号(2017年06月)4ページ

病院だより 「エリザベス闘病」

 3月18日夕方、動物病院に久々の大型動物が入院しました。メスのピューマ、エリザベスです。以前から尿検査の結果が思わしくなく、心配されていたのですが、この日は放飼場で横になって体を震わせていました。寝室にどうにか自力で入った後、獣医が吹き矢で麻酔をかけて病院へ運びました。

 血液検査や尿検査から、腎臓がかなりダメージを受けていることがわかりました。ペットのネコでは高齢になると腎不全を患うことが多く(腎臓にたまったゴミを掃除するたんぱく質が、ネコではうまく働かないようです)、5歳以上での死亡率は第1位だそうです。大型のネコ科動物にもこの傾向はあるようで、当園でも18歳のアムールトラ、ナナがもう長いこと腎臓への投薬を続けています。そしてエリザベスも16歳とかなりの高齢です。

 この日からエリザベスの闘病生活が始まりました。治療には定期的な血液検査と十分な輸液が必要です。エリザベスがおとなしく注射針を刺されてくれるわけもないので、治療の度にスクイーズという壁が動いて幅が狭くなる仕組みのケージに誘い込みます。そして操舵輪のような大きくて重いハンドルを二人がかりで回して壁を動かすのですが、二人の回すスピードが違うと歯車がずれて動かなくなってしまいます。息を合わせ、動きをシンクロさせる必要があるのです。体全体を使ってハンドルを回す二人はまるでEXILE。傍から見ていると滑稽ですらあるのですが当人たちは必死です。エリザベスもギャリギャリと大きな音を立てて迫ってくる壁に恐れおののきます。最近では横になって壁に足を突っ張って抵抗までします。

 狭くて身動きが取れない中でもエリザベスはケージに牙や爪を立てて暴れます。余計なケガをしてしまわないかと心配なので、鎮静剤を打つことにしました。おとなしくなったところで、鉄格子の隙間から傘の柄で尾を引っ張り出して、採血。その後に毎回2リットルの輸液を皮下に入れます。点滴の針を刺す時に、エリザベスの毛皮がボロボロになっているのがよくわかるので、かわいそうになります。腎不全の影響に加え、固い床の上にほぼ1日中横になっているので、あちこちに尿焼けや床ずれができているのです。他にもいくつか注射をして、またEXILEよろしくハンドルを回してスクイーズを戻し、エリザベスを開放します。朝一番でこれをやると、それだけで一日働いたような疲労感が。でもエリザベスのストレスはきっとそれ以上でしょう。そんなことを入院以来、5日おきに繰り返しています。
 
 先の見えない治療ですが、だんだん光が見えてきた部分もあります。初めのうち、いろいろな抗生物質をとっかえひっかえ使っても血液検査の結果に変化がありませんでしたが、最近ステロイド剤と貧血を改善する薬を使って血液検査の結果が改善しました。また、床に木のすのこを敷いてみると、エリザベスは気に入ったのかずっとその上に座っています。すると尿焼けと床ずれが治ってきて、毛皮が以前より少しきれいになりました。食欲も出てきたので、餌を増やしました。たんぱく質が多い食事は腎臓に負担をかけるので、メニューも高脂肪低たんぱくへのシフトを検討しています。

 今の時点では、エリザベスがいつ再び皆さんの前に姿を現せるかはわかりません。一度ダメージを受けた腎臓を治すのはとても難しいことです。それでも、希望を捨てずに治療を続けます。エントランスの向こうの動物病院を見たとき、心の中でエリザベス(と、もしよければ病院スタッフ)にエールを送っていただけたらうれしいです。


(動物病院係 山田 大輔)

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