でっきぶらし(News Paper)

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229号(2016年04月)2ページ

普通って本当に普通でしょうか①

 唐突で申し訳ありませんが、皆さん、【普通】という表現について考えた事がありますか?言い換えたならば、【普通】の意味について?今回は、この【普通】を、動物(生物)を参考例として考えてみたいと思います。
 …私が担当している夜行性動物館に、アムールヤマネコという動物がいます。オス・メスの2頭で大きくもなく小さくもなく、ほぼ、皆さんが想像されるネコのサイズだと思います。体色も、まあ、それこそ大多数の人々から見たら地味かも知れません。このアムールヤマネコを前にした時、観客の方々がだいたい2系統の表現をする事に、私はずいぶん前から気が付いていました。それは、①『何だ、普通のネコじゃん』あるいは②『何か、普通のネコと違うね』です。そう……【普通】。けれども、この表現は本当に正しいものでしょうか?
ストレートに御話しますが、この2系統の表現は、ある方向に視点を変化させた時、どちらも正しくなくなってしまう様な気がします。普通のネコって、どこにいるネコですか?人間の周囲に色々なかたちで存在するネコの事ですよね?普通のネコって本当に【普通】でしょうか?
 私は違うと思います。何故ならば、【ネコという動物そのもの】に視点を換えれば、アムールヤマネコ達の方が【普通】だからです。…人間の周囲に居るネコは、野生種でも飼育していない限り、ほぼ必ず人間の手が加わっています。人工交配・品種改良というかたちで。だからこそ、やたらに大きかったり小さかったり、毛が長かったり短いかほぼ無かったり、肢が極端に長かったり短かったりします。少し難解な言い方になってしまうかも知れませんが、要するに【ネコという動物そのもの】を中心に考えた時、人間の手がいっさい加わっていない、今回の場合でいえばアムールヤマネコに代表される野生種のネコ達の方が【ネコとしては普通】であり、人間の周りに居るネコ達は人間に人工交配・品種改良されている為、すでに自然・ナチュラルではありませんから、【ネコとして普通】ではない、と解釈できると思います(あくまで生物学的に、ですが)。
 そう、【種としての動物】としてネコという生き物を俯瞰的(ふかんてき)に視た時、人工交配・品種改良されたネコ達…語弊があるかも知れませんが、人間の手が加わり家畜化されたネコ達はすでに生物学的に【普通のネコ】ではないのです。
 だからこそ、アムールヤマネコ等の野生種のネコを観た時に、ただ単に『ネコじゃん!』というのは正論だと思いますが、ここに【普通】という表現を乗せてしまうと、とたんに本質的な…生物学的な事柄がおかしくなってしまいます(もちろん、【アムールヤマネコの方がネコとして普通】と判断基準にして表現する場合ならば、彼らを『普通のネコじゃん!』というのも正論になります。けれども彼らを『普通のネコと違う』と表現するのは正論にはなりません。この場合、【普通】の判断基準が人工交配・品種改良されたネコの方になってしまうからです)。

②へ続く

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