でっきぶらし(News Paper)

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227号(2015年12月)5ページ

この夏の目標(その1)

 朝夕の冷え込みが強くなり、この夏の楽しかった思い出も遠くの記憶になる頃です。そろそろ冬休みや新年の目標を考える時期でしょうか?夏休みも同様に目標を立てて過ごした方も多いと思います。目標達成した夏だったでしょうか?
 「ポンちゃんとじいやんが夏を乗り越えること」これが私のこの夏の目標でした。
ポンちゃんはふれあい動物園で暮らす31歳のおばあちゃんポニーです。年を取って動きもゆっくりになり、歯もすり減って食べた乾草が口からこぼれてしまったり、やせてきたりと高齢による変化が少しずついろいろ見られるようになってきました。
 初夏の削蹄の時、3か月に1度のポニーやウマの様子の変化を見ながら装蹄師さんが「ポンちゃん、この夏過ごすの大変そうだね。」と言いました。暑さが苦手な動物であるうえに、体にこたえる年齢。その日から、「ポンちゃんに夏を越えさせよう!」がふれあい動物園の飼育員達との合言葉になりました。毎日の採食量、便の様子、体調を朝の私たち獣医の見回り時に一緒に確認します。食べてもやせてしまうので与える乾草の量を増やしたり、餌に栄養剤を混ぜたり、扇風機を設置したり、本格的な暑さがやってくる前に体調を整え把握しました。
7月中旬の猛暑の夕方、「あの、ちょっと一緒に様子確認してください。」と動物病院の飼育員の不安そうな声。「何?どうした?」と、見に行くと、フェネックのオレゴンおじいちゃんがドアと壁の隙間にはまったまま。「じいやん!大丈夫!?」声をかけて手を伸ばすと、眠ったままです。オレゴンはでっきぶらし第226号で長寿表彰の報告をした13歳のフェネックです。日光浴をするための外部屋への出入り口のドアと壁との隙間にいつのまにか入り込んだようです。じいやんは、白内障で目が見えません。触っただけで体が熱い。「熱中症かも!」急いで保冷剤と扇風機で体を冷やし、点滴などの処置をします。案の定、体温は40℃を超えていました。目が見えず室内を歩き回り、狭いところにはまり込みそのまま西日に当たり体温が上昇しているのに気付かず眠り続けてしまったようです。幸い、回復しましたが、体温調節機能の低下している高齢動物の熱中症の危険を実感。同じ場所にまたはまらない措置と風通しの再確認と高齢動物熱中症要注意警報(飼育員への呼びかけ)が発令されました。
 その翌日の猛暑の夕方。今度はポンちゃんが熱中症気味でふれあい動物園から呼び出しがありました。これも幸い、発見が早く体温が上がりすぎる前に冷却処置を行えました。でも、やっぱりこの2頭からは目が離せません。
 7月下旬の猛暑の夕方、「ポンちゃんが座り込んでしまいました!」連絡を受け、駆けつけると寝室で立ち上がれなくなったポンちゃん。今日の夕方までの様子を飼育員から確認しながら、応急処置を始めます。少しして立ち上がりましたが、ボーっとしています。体温は低め。熱中症ではなさそうですが、ウマの仲間特有の疝痛の心配も。排便の様子を確認しておなかの動きを聴診します。痛み止めの注射をして点滴をしているうちに、ゆっくり乾草を食べ始めてくれました。「ひとまず安心。」
 その後しばらく点滴を続け、血液検査をしながら治療の方針を探りました。貧血などいくつか気になる検査値があります。注射や飲み薬の処方を夏いっぱいかけて過ごしました。その後も何回か急に座り込むことがありましたが、すぐに処置をし気になる検査値もわずかに良くなる傾向が見られています。今も毎朝必ず検温と聴診。やや体温は低めですが、おなかの調子、食欲はばっちり。今月の定期検査では気になる数値があったのでここ数日点滴をしています。
 ポンちゃんは何度も危機を乗り越え、暑い夏をも乗り越え冬を迎えようとしています。体に触れると、今日の調子を感じられます。最近は朝の冷え込みと朝日の角度の変化から朝体を触るとひんやり。検温をしながら、「今朝は冷えたからゾウはいつもより温かく感じたよ。」「ポンちゃんはこれから日光浴してあったまろうね。」などと飼育員と会話をします。ポンちゃんは歩きも大変になってきたので、馬場まで歩くのも精一杯。最近は、ロバのゴンちゃんが馬場へ出かけた後、隣のゴンちゃんスペースで日光浴をしています。
(その2へ続く)

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