でっきぶらし(News Paper)

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167号(2005年09月)9ページ

病院だより

ただいま育児奮戦中

 動物病院では園内の動物が怪我や病気になったとき、又、野生動物が同様の理由で保護されたときに診察や治療をします。その中には出産後に親が育児放棄して衰弱した個体や、生後まもなく何らかの理由で親とはぐれ、保護された動物の赤ちゃんが連れてこられる時があります。その時は人工保育器やゲージの中で人間がお母さん代わりに哺乳をして育てる(いわゆる人工保育!)ことになります。

 7月6日に保護されたホンシュウジカもそんな赤ちゃんのうちの一頭です。体重3010g、生後20日程度、衰弱しているうえに右後肢も湾曲して、そのままほおっておけばすぐに死んでしまいそうでした。

 すぐに脚にテーピングをして固定し、哺乳瓶でミルク(動物や日数によっていろいろなミルクを使いますがこの子は牛乳でした)を与えようとしましたが、最初のうちは自分からは飲もうとしませんでした。何とか口に含ませる感じで、量も1回に40cc程度でしたが、数日後には峠を超え、徐々に自分で哺乳瓶に口をつけるようになりました。1回の哺乳量も200cc、1日に4回ほど飲むようになり、ほっとしたものでした。

 1ヶ月も経つ頃には脚のテーピングも取れて、元気に歩けるようになりました。ミルクの中にミキサーにかけた野菜を混ぜて徐々に味になれさせて、8月中旬あたりからミルク以外に煮イモや煮ニンジンをみじん切りにして少しずつ与え始めました。

 最近では体重も11kgに増え、元気に走り回っています。ミルクも1日2回に減らして、乾草やヘイキューブ(栄養価の高い牧草を圧縮してサイコロ状に固めたものです)などを食べるようになりました。病院のケージ内だけでは狭いので、運動のため動物園内を散歩させていることもありますので見られた方もいるのではないでしょうか。

 ところで皆さん、どんなふうにシカにミルクをあげるかご存知ですか?!子ジカはお母さんシカのお腹の下に潜り込んで、乳首を探しながら吸い方を覚えます。ですから飼育員も股の間に後ろ向きに哺乳瓶を挟んで、子シカにお尻を突き出した格好で与えます(笑)!少しでも野生に近いようにとの授乳姿勢ですが、飲みきってまだ物足りない子ジカが「キューキュー」と鳴きながら鼻先でお尻をつついてきて、思わずくすぐったくて吹き出してしまいそうです。

 徐々に離乳をしながら人工保育はもうしばらく続きそうです。病院ではこの4月以降だけでもシカ以外に、ムササビ、ノウサギ、ニホンザルやクジャク、つい先日からはピグミーマーモセットなど、いろいろな動物の人工保育や繁殖を行っています。大変ですが元気に一人前に育ってくれたときはその分喜びもひとしおです。

(河村 茂保)

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